歯胚を中心にエナメル質と象牙質が集まり、だんだんと歯が形作られていく

歯の発生のメカニズム

私たちの歯は、「歯胚」という”歯の芽”から生まれます。最初に乳歯の歯胚が、次に永久歯の歯胚が成長することで新しい歯が形作られ、歯ぐきを押し上げて生えてきます。

歯の発生を阻害するタンパク質の
はたらきを抑えれば
新しい歯を生み出せる

通常であれば、乳歯と永久歯のあとに歯が生えることはありません。しかし、2007年、通常よりも多くの歯が生えているモデルマウスを発見。そのマウスは歯の成長を阻害するタンパク質「USAG-1」が欠損しており、歯胚が過剰に育っていた状態でした。つまり、歯の発生は、歯の成長を阻害するUSAG-1によって制御されていることが判明したのです。

そこで私たちは、USAG-1のはたらきを抑える「抗USAG-1抗体」を開発しました。これを投与することで、歯胚の成長を止めず、新しい歯を成長させることができます。抗USAG-1抗体は、新しい歯を生やす「歯生え薬」となり得るのです

先天性・後天性
それぞれの要因に向けた
治療アプローチ

歯が生えてこない症例には、先天性のものと後天性のものの2種類があります(右図)。このうち、先天性のものには遺伝的な要因が関係していると考えられ、原因遺伝子(Wnt10a、EDAなど)も見つけられています。
私たちはまず、この「先天性無歯症」に対しての治療アプローチを行いたいと考えています。成長しなかった永久歯の歯胚に抗USAG-1抗体を投与。成長を促し、新しい歯を発生させます。

また、次のステップとして、虫歯や事故などの後天的な要因で失われた歯の治療に取り組みます。ヒトには、永久歯の次の歯の芽(第三歯堤)が存在しています。この第三歯堤に抗USAG-1抗体を投与すれば、歯が生えそろった大人であっても、永久歯の次の「第三の歯」を生やすことができる可能性があります。

先天性無歯症

後天性無歯症

完全無歯症 …
すべての永久歯が遺伝的要因で欠如
部分性無歯症…
6本以上の永久歯が遺伝的要因で欠如or
1~5本の永久歯が主に環境的要因で欠如

…生えた永久歯が環境的要因で欠損


部分性無歯症の症例

歯科治療に変革を起こす

現在、日本国内の先天性無歯症の患者数はおよそ60万人、後天的に歯を失う方はおよそ300万人と推定されています。世界規模で見ると、その数はさらに大きくなります。
私たちは、先天性無歯症の治療法の開発を初期ターゲットに設定し、ゆくゆくは市場規模の大きい後天性マーケットへの参入を計画しています。 歯を失った方々へ、これまでにない革新的な治療法を提供し、「歯を失うことが怖くない」社会の実現を目指します

共同研究先

東北大学 東北メディカル・メガバンク機構との共同研究により、先天性無歯症の病院・病態の早期解明を目指しています。また、公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院とともに、再生治療薬の治験開始に向けて準備を進めています。