トレジェム・バイオファーマの研究開発
歯の欠損
歯は先天性・後天性に失われます。
先天性の歯の欠損には、先天性無歯症と部分無歯症があります。
6本以上の永久歯が生えてこない先天性無歯症は原因遺伝子がいくつか知られており、疾患モデルマウスでは永久歯の歯の芽(歯胚)が途中で成長しなくなることがわかっています。
部分無歯症は、むし歯などの治療のために小児歯科を受診したときにたまたま発見され、10%の人に発症すると報告されています。
後天性の歯の欠損はむし歯や歯周病などによる歯の喪失であり、1本以上の歯を失っている人は日本では60歳以上で年間4,300万人を超えています。
私たちの挑戦:歯の再生と、カギとなる分子
きっかけは、過剰歯(通常よりも多い歯)を持つモデルマウスが2007年に発見されたことです。
USAG-1遺伝子欠損マウスでは、通常は退化して消えてしまう歯の芽が退化せずに成長することにより過剰歯を形成することがわかりました。それまでは、歯の数が少ない遺伝子欠損マウスはいくつか知られていましたが、歯の数が多い遺伝子欠損マウスは非常にまれでした。
髙橋先生はマウスの結果に基づいて、USAG-1タンパクを薬で不活性化することにより、先天性・後天性の歯の欠損を、歯を生やすことによって治療できる可能性を考え、マウス抗USAG-1抗体を作製しました。マウス抗USAG-1抗体の生物学的活性を確認し、歯の数が少ない遺伝子欠損マウスに1回投与することで、歯の数が回復することが確認できました(学術論文に掲載Science Advances 7.7 (2021): eabf1798)。さらに、マウスとフェレットで歯の数が増えることを確認できた3種類のマウス抗USAG-1抗体をヒト化し、そのうち1種類を開発候補物(TRG-035)として選定し予備毒性試験を終えました。
現在はヒト臨床治験の実施に向けてTRG-035の製造方法・精製の検討、安全性試験の準備をしているところです。
製品とサービス -世界初の歯が生える薬-
私たちは歯の欠損に対する自己歯再生薬(いわゆる歯生え薬)を開発し、自分の歯で長く咬めるようにすることで健康寿命の延伸に貢献したいと考えています。
まずは遺伝性の先天性無歯症に対する治療薬としての開発を進めています(現在は先天性無歯症に対する治療薬は存在せず、小学生の頃から義歯などを装着します)。
先天性無歯症の場合は遺伝子の状態に基づいて、1度の抗体製剤(注射薬)の投与で通常の数の歯を生やす治療を想定しています。
部分無歯症に対しては永久歯胚が形成されていないことが診断された時点で抗体製剤を1回投与することにより、永久歯の成長を開始させる治療法を想定しています。
後天性の歯の欠損に対しては永久歯の次の歯の芽(第三歯堤)を成長させることにより、永久歯の次の歯が生えることによる歯の再生を目指しています。